小学校での実例
さて、私は小学校の教諭ですので、子供達の成長を目の当たりにしています。
鉛筆の持ち方もしかり。大きいマスでも字が入らない子、まっすぐな線がひけず、ヘロヘロな線しか書けない子。この子、一体どうするんだろうと正直、思うこともあります。
でも、毎日毎日、学校に来て、ふにゃふにゃした字でも写したりなぞったりしているうちに、三年生ぐらいになると、小さなマスにかけていたりするんです。
小学校は新しいことばかり。定規の使い方を始め、鍵盤ハーモニカ、分度器、コンパス、針に糸、ミシンに包丁、どうやって使うかを練習するのですが、目を瞑りたい気持ちになる事が多いです。
でも、やっぱり、毎日やる、というのは大きいですね。
コンパスを使って円が描けるようになりますし、針と糸を使ってボタンもつけられるようになります。
まあ、本当に苦手な子供さんもいて、特別に練習したり、補助用の器具を使ったりすることもないわけではないのですが、大体、できるようになり、毎年のことながら、成長するってすごいなあと思うのです。
さて、小学校では3年生からリコーダーの学習が始まります。
B子さんは、少し不器用です。いえ、とっても不器用です。
2年生の時も定規で線を引くのが難しく、定規を押さえるときに指が線上にはみ出してしまい、指の形が残る直線を描いていました。
今回はリコーダーです。まず左手でリコーダーの上部の穴を押さえて、シ、ラ、ソなどの音を出すのですが、空気が漏れないよう穴を塞がないと「ぴー」という甲高いお間抜けな音が出てしまいます。
指とリコーダーの隙間が空いているのも、変な音が出る原因です。
それで、リコーダーの穴に合わせて魚の目パットを貼りました。
それなら、穴の位置が指で探りやすいし、穴も少しはうまく塞がります。
今までの経験上、これで何度か練習すれば真っ当な音が出るのですが、B子さんは、やっぱり「ぴー」。
本人もすっかりしょげてしまいました。
でも、B子さんはお家でも学校でも練習しました。
と、どうでしょう。2学期になると、「ぴー」の音は出なくなり、「シ」や「ラ」や「ソ」など、所定の場所に指が置けるようになりました。
リコーダーは結構複雑です。
一番簡単な音とされる「シ」ですら、親指と人差し指でリコーダーの穴を塞がないといけません。「ラ」や「ソ」になると塞ぐ穴の数が多くなるので、どこかがいい加減になってしまい、変な音が出てしまうのです。
そして、小学校3年生の子どもたちの手はそんない大きくありません。
所定の場所に指を当てるのも精一杯なのに、穴を塞ぐとなると至難の業です。
B子さん、よく練習したなあ、と思いました。
リコーダーの演奏者になるわけでもないのに、土曜日日曜日、夏休み、練習したのだそうです。
私はB子さんの顔を見ながら、先輩教師の言葉を思い出していました。
リコーダーでもコンパスでも何でも、苦手なことは誰にでもある。大事なのは、それとどう向き合うかだ。逃げてしまえば、これから嫌なことに出会った時、逃げるしか方法がないけれど、取り組んだら、取り組んだ方法は自分のものになる。
もしかすると、これって、私に伝えたかった言葉なのかもしれません。と今になって思います。
とにかく、続ける、継続することは力になるのです。
私はB子さんに出会えて、幸せ者です。
ありがとう、B子さん。